人事労務
人事労務担当者の「守破離」
社労士 かつやまくん
2026/8/15
― 労務を守り、人事で仕組みをつくり、会社をおもしろくする ―
「この場合、どうすればいいですか?」から、「私はこう考えます」へ。
人事労務の仕事は、法律やルールを知るだけでは終わりません。
会社を知り、時代を知り、自分で考え、発信し、人を巻き込みながら、会社の仕組みを少しずつ整えていく。
そしてその先には、「自分は、人事労務を通じて何を実現したいのか」という問いがあります。
今回は、人事労務担当者の成長を「守破離」という切り口から、一緒に考えてみます。
「この場合、どうすればいいですか?」から、
「私はこう考えます」へ
私はこれまで、社会保険労務士として、多くの会社や人事労務担当者と一緒に仕事をしてきました。
その中で、相談の仕方が少しずつ変わっていくことがあります。
最初のころは、
「この場合、どうすればいいですか?」
だった相談が、少しずつ、
「私はこう考えたのですが、どうでしょうか?」
に変わっていく。
私は、この変化はとても大きいと思っています。
単に知識が増えたということだけではありません。
自分で調べ、考え、会社の状況と照らし合わせたうえで、自分なりの判断を持って相談するようになっているからです。
もちろん、分からないことを専門家に確認することは大切です。
今なら、生成AIを使って法律や制度を調べたり、考え方を整理したりすることもできます。
私自身も生成AIをかなり活用しています。
ただ、
「AIがこう言っていました。合っていますか?」
で終わってしまうのは、少しもったいない。
AIは、自分の代わりに責任を取ってくれるわけではありません。
調べる。
整理する。
自分の考えを広げる。
自分自身の知識や判断の裏付けに使う。
そのうえで、
「私はこう考えます」
と言えるようになる。
自分の言葉で発するということは、その言葉に責任を持つということでもあります。
人事労務の仕事には、そんなふうに、自分で考え、判断していく段階があるのではないでしょうか。
それを今回は、「守破離」で考えてみたいと思います。
「守」――ルールを知る、会社を知る、時代を知る
まずは「守」です。
人事労務の仕事をする以上、法律やルールを知らなければ始まりません。
労働基準法をはじめとする法令。
就業規則。
労使協定。
社内規程。
こうしたフォーマルなルールを理解することは、人事労務担当者の土台です。
ただ、知るべきものはそれだけではありません。
会社には、規程には書かれていないルールもあります。
これまでの慣習。
業界特有の考え方。
経営者の思い。
その会社らしい文化。
いわば、インフォーマルなルールです。
さらに、会社を取り巻く環境も変わっていきます。
法律が変わる。
働き方が変わる。
労働市場が変わる。
働く人の価値観が変わる。
生成AIのような新しい技術も登場する。
だから、人事労務担当者が知るべきなのは、
ルールだけではありません。
会社を知る。
そして、時代を知る。
そのうえで、
「なぜ、このルールになっているのだろう」
「今も、このやり方が必要なのだろうか」
「これからの会社にも、このままでいいのだろうか」
と考えてみる。
ルールを知る。
会社を知る。
時代を知る。
そして、理解したうえで疑ってみる。
ここまでが、私は「守」だと思っています。
乖離を見つけたら、会社が目的を達成し続けられる状態へ整える
法律と会社のルール。
会社のルールと実際の運用。
経営者が考えていることと、現場で行われていること。
人事労務の仕事をしていると、こうした乖離に気づくことがあります。
もちろん、法律に違反しているのであれば是正しなければなりません。
一方で、
「一般的にはこうだから」
「ほかの会社ではこうしているから」
という理由だけで、その会社が長年大切にしてきたものまで、すべて変える必要があるのでしょうか。
私は、必ずしもそうではないと思っています。
大切なのは、
この会社が長く、その目的を達成し続けるためには、どのような状態が必要なのか。
という視点です。
法令を守る。
会社が大切にしてきた文化も見る。
実際の現場で運用できるかも考える。
そして、フォーマルなルール、インフォーマルなルール、実際の運用を、無理のない順番で少しずつ整えていく。
私は、この作業をよく、
「マージしていく」
という言葉で考えています。
どれか一つを正解として押しつけるのではなく、それぞれを見ながら、会社として続けられる形へ近づけていく。
会社を「正解」に近づけるのではなく、
会社が長く目的を達成し続けられる状態へ近づけていく。
人事労務には、そんな役割もあると思っています。
「破」――考え、発信し、人を巻き込み、行動する
ルールを理解し、会社や時代を理解すると、
「ここは変えた方がいいのではないか」
と思う場面が出てきます。
ここからが「破」です。
ただ、問題に気づいただけでは会社は変わりません。
なぜ変える必要があるのか。
何を変えるのか。
変えることで、何を実現したいのか。
まず自分で考える。
そして、自分の言葉で発信する。
ただし、人事労務の仕事の多くは、一人では完結しません。
経営者。
管理職。
現場の社員。
他部署。
外部の専門家。
いろいろな人に話をし、理解してもらい、ときには意見をぶつけ合いながら進めていく必要があります。
つまり、
考え、発信し、人を巻き込み、行動する。
そして、実際にやってみたら、
「本当にうまくいったのか」
を振り返る。
行動するのは、行動すること自体が目的ではありません。
行動するのは、目的を達成するためです。
だから、
考える。
発信する。
人を巻き込む。
行動する。
そして振り返る。
このサイクルを回していく。
人事労務担当者は、ここから、
「知識を持っている人」から、「会社を少しずつ動かせる人」へ
少しずつ変わっていくのだと思います。
「離」――会社の存在意義から、人材活用を考える
そして「離」。
人事労務の仕事を続けていると、目の前の手続きや制度だけではなく、もう少し大きな問いに出会います。
「この会社は、何のために存在しているのだろう」
という問いです。
会社が実現したいことがある。
そのためには、どんな人が必要なのか。
どんな能力を持つ人に、どんな環境で働いてもらうのか。
どんな仕組みがあれば、その人たちが力を発揮できるのか。
そこから考えていけば、
採用。
育成。
配置。
評価。
処遇。
働き方。
すべてがつながってきます。
労務管理を土台にしながら、会社の目的から人と組織を考えていく。
これが、一つの「離」だと思います。
その先には、マネジメントや経営に関わっていく道もあるでしょう。
一方で、人事労務という専門領域をさらに深く掘り下げ、専門家として価値を高めていく道もあります。
どちらが上という話ではありません。
大切なのは、
「自分は、人事労務を通じて何を実現したいのか」
という問いを持つことだと思います。
「離」は、労務から離れることではありません。
労務という土台を持ちながら、自分が見る世界を広げていくことなのだと思います。
「何をしているか」から、「何のためにしているか」へ
有名な石工の話があります。
ある人が、石を積んでいる3人の職人に、
「あなたは何をしているのですか?」
と尋ねました。
一人目は、
「石を積んでいます」
と答えました。
二人目は、
「壁をつくっています」
と答えました。
そして三人目は、
「多くの人が集う、大きな建物をつくっています」
と答えました。
やっている仕事は同じです。
でも、見ているものが違います。
人事労務の仕事も、同じなのではないでしょうか。
勤怠をチェックする。
給与計算のデータをつくる。
法改正に合わせて就業規則を直す。
社員からの相談に答える。
目の前の仕事だけを見れば、それは一つ一つの「作業」です。
でも、
「何のためにやっているのか」
まで考えると、仕事の見え方が変わります。
勤怠を確認する。
正しい労働時間を把握する。
正しく給与を支払う。
未払い賃金を防ぐ。
働く人が安心して働ける土台をつくる。
就業規則を変えることも、単に条文を書き換えることが目的ではありません。
法律や社会が変わっても、
会社が長く、その目的を達成し続けられる状態をつくる。
そのためにルールを整える。
「何をしているか」から、
「何のためにしているか」へ。
この視点が、人事労務の仕事を大きく変えていくのだと思います。
人事は、主体性が生まれる仕組みをつくる
働く人が、
「自分の仕事が、会社の目的とどうつながっているのか」
を理解できれば、仕事への向き合い方も変わっていきます。
ただ、
「もっと主体的に働いてください」
と言うだけでは、主体性は生まれません。
人事が考えるべきなのは、
働く人が主体性を持てる仕組みを、どうつくるか。
ということだと思います。
自分の仕事の意味が分かる。
期待されていることが分かる。
自分で考えられる余白がある。
挑戦できる。
失敗から学べる。
そして、
物事を自分ごととして引き受ける「自責」の意識
を持てる。
ここでいう「自責」は、自分を責めることではありません。
何かが起きたときに、
「誰かが悪い」
で終わるのではなく、
「自分には何ができるだろう」
と考えることです。
一方で、精神論だけでは会社は続きません。
働く人が安心して生活できること。
会社がきちんと利益を出し、その成果を働く人に還元できること。
これも大切です。
腹が減っては戦はできぬです。
人が主体的に働く。
会社が利益を出す。
その成果を働く人にきちんと還元する。
そして、また人が力を発揮する。
そんな循環をつくっていく。
また、強い経営者が会社を引っ張ること自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、その強い思いと推進力があるからこそ、成長してきた会社もたくさんあります。
人事の役割は、その力を弱めることではない。
経営者の思いを、組織の仕組みに変える。
そして、
経営者の推進力を、組織の力へ変えていく。
それも、人事ができる大切な仕事だと思います。
HR COMPASSIAで、一緒に考えていきたいこと
私自身も、まだまだ考え、学び、試している途中です。
人事労務には、法律や制度として確認できる「答え」があります。
一方で、実際の会社では、その答えを知っただけでは決められないことがたくさんあります。
会社の歴史。
経営者の思い。
現場で働く人たち。
これまで続いてきた文化。
そして、これからどんな会社になりたいのか。
そうしたものを一緒に見ながら、
「なぜ、そう考えるのか」
「自分たちの会社では、どうするのか」
を考えていく。
HR COMPASSIAは、誰かが正解を教える場所ではなく、
人事労務に携わる皆さんと、一緒に考え、判断し、よりよい会社の仕組みをつくっていく場所
にしたいと思っています。
私が考える「おもしろい会社」は、単に楽しい会社という意味ではありません。
働く人が、経営者の思いや会社が目指していることにわくわくする。
その会社を好きになる。
そして、
「自分も、この会社をつくっている」
と感じながら、自分なりに考え、力を発揮できる。
もちろん、そのためには安心して働ける労務管理の土台や、会社がきちんと利益を出し、働く人に還元していくことも欠かせません。
その積み重ねの先に、
「この会社で働いていることを誇れる」
という気持ちが生まれるのではないかと思っています。
「おもしろい会社」とは何か。
その答えも、会社によって違うはずです。
だからこそHR COMPASSIAでは、日々の人事労務の実務から、
「自分たちの会社は、どんな会社でありたいのか」
を一緒に考えていきたい。
HR COMPASSIAは、そのための場所です。